ある男-映画ラストの意味や解釈はどっち?城戸のその後をネタバレ考察

公開日: 2024年3月30日 | 最終更新日: 2024年6月19日

 

平野啓一郎著【ある男が、妻夫木聡さんを主演として映画化したのは2022年のこと。

しかし映画だけ観た方は、「なぜ登場が中盤からの妻夫木さんが主演なんだろう?」と疑問に思われたかもしれません。

実は、映画ラストのバーのシーン、書籍版では「序」として冒頭で描かれているんですね。

つまり、妻夫木さんが演じた「城戸」は、作品で最も重大な人物だということです。

 

その城戸が、ラストで見せたあのシーン。

……あれはいったい、どういうことだったのでしょうか?

今回は、映画の最後のシーンについて解説します↓↓

この記事を見て分かること
  • 映画ラストの「意味」や「解釈
  • 城戸のその後」について

 

 

 

 

映画ラストの意味や解釈はどっち?

 

さて、映画のラストで描かれたバーのシーンでは、弁護士の城戸がまるで「谷口(誠)」であるかのような口ぶりで話をしています。

このラストに関して、「どういうこと?」と感じた視聴者の方も多かったはず。

まさか城戸も戸籍を交換したの?と。。。。。

ここからは、「城戸は戸籍を交換したのか?」「していないのか?」について考察していきます↓↓

 

最後のセリフから城戸(妻夫木)は演じているだけと考察

 

映画「ある男」のラストシーンで、城戸は「伊香保温泉の次男だった」「宮崎で林業をしている」「子供が2人」と、まるで谷口として人生を送っているようなことを、バーで告げていますね。

しかしこれは、結論から言うと、城戸は戸籍を交換したわけではなく、別人(谷口だった誠)を演じているだけだと思います。

その根拠を以下に書いていきます!↓↓

 

 

理由① 小説では演技していることが判明している

前述しましたが、この映画には原作小説があります。

そこでは、「序」つまりプロローグでこのように描かれていました↓↓

「私」バーで出会った中年男性

 

おそらく、この中年男性こそが城戸なのでした。

 

城戸は最初、「私」に対して名前・経歴などを告げるのですが「私」が小説家であることがわかると、一転して「今まで語ったものは全て噓でした」と告白します。

何故うそを?と訊ねる「私」に、城戸は『他人の傷を生きることで、自分自身を保っている』と語りました。

『嘘のお陰で、正直になれるっていう感覚、わかります?』

『でも、勿論、こういう場での束の間のことですよ。ほんのちょっとの時間です』

僕は何だかんだで、僕という人間に愛着があるんです

 

作家である「私」に対してなんらかの感慨を抱いたからこそ、このように告白をした城戸ですが、これまでにも初対面の相手などに別人としてふるまっていたことが読み取れますね。

 

理由② 戸籍交換をする動機が薄い

『僕は何だかんだで、僕という人間に愛着があるんです』という言葉通り、城戸は決して、自分がこれまで培ってきたものを無下にしたいわけではないのでしょう。

むしろ、『他人の傷を生きることで、自分自身を保っている』というセリフからは「自分を愛したいからこそ、他人のふりをする」ことを感じさせます。

映画をご覧になった方は城戸をとりまく、そこはかとない抑圧を知ったことでしょう。

作中で戸籍を交換した谷口、そして原誠は、これまでの自分の人生を丸ごと捨て別人として生きるしかありませんでしたが。。

 

城戸の場合は、「これまでどおり城戸章良として生きていくために、もう二度と会わないだろう人間を相手に別人を演じ」ているのでしょう。

戸籍を交換したという意見もありますが、上記から「その動機は薄」と考えます。

というか、家族を捨て・経歴を捨て・職を捨て・別人として生きるというのは、本当の本当に「よっぽど」なことなので、城戸はそこまでやけっぱちにならないように、適度にガス抜きをしているのでしょうね。

 

 

理由③ 本当の戸籍ブローカーが牢獄の小見浦とは限らない

 

そもそも、「戸籍を他人と交換する」なんて尋常な手段ではありません。

別人になりたいなー、なんて思っても、ふつうは無理です。

谷口や原誠はどういうツテでか、戸籍ブローカーを利用することができました。

 

しかし、そんなツテも真っ当に生きてきた人間には知る由もありません。

城戸の場合は、谷口事件で出会った小見浦(柄本昭)という男が唯一知る戸籍ブローカーですが。。

小見浦自身が、『私が「小見浦憲男」って男だって、どうしてわかるんです?』『私だけどうして、戸籍を変えてないと思うんです?』と発言していますね。

 

もちろん、これは城戸をおちょくるための嘘かもしれませんが……

この、小見浦として現れた男は、本当に戸籍ブローカーなのでしょうか??と、疑わざるを得ません。

他人の「経歴」を我がことのようにペラペラしゃべる人間が、この作品ではほかにも出てきましたからね……

 

理由④ 弁護士の職に誇りを持っている

また、もっと即物的な話で「弁護士って職に就いている人間が、その経歴を捨てられるか??」と、個人的には思ってしまいますね。

弁護士になるって、大変らしいじゃないですか。

国家資格を取るのって専門的な勉強がもちろん必須ですし、特に司法試験は国家資格の中でも最難関だそうですよ。

 

それに、映画を見ていてもどうやら城戸は敏腕弁護士のようです。

依頼主たちに、何度も何度も頭を下げられるほどに感謝されていましたね。

悪徳弁護士と後ろ指をさされるでも、仕事を干されるでもなく。。。

 

そういえば理枝(安藤サクラ)も夫を失い、しかもその夫が別人の経歴で生きていた謎の人物「X」だったと知ったときには、真っ先に城戸を頼りました。

弁護士という限られた人間しか就くことのできないエリート職に適性もあり、愛着と誇りを持っているであろう城戸がこの経歴を捨てる決断は、なかなかできないでしょうね。

というか仮に決断できたとしても城戸の場合、これまでの依頼主など弁護士として顔を合わせた人間が全国にいるでしょうから、、、、

バーで別人としてふるまうくらいならともかく、「完全な別人」として生きるのは、谷口や誠よりよっぽど難しい気もします。

アニ木
アニ木
城戸が本気で別人になる気なら海外暮らしになるかもね

 

理由⑤ 戸籍交換をしても谷口という選択肢はない

 

なぜ映画のラストシーンで、城戸は「谷口」の経歴を語ったのか?

アニ木
アニ木
ここでの「谷口」というのは、谷口大祐と戸籍を交換した原誠(窪田正孝)のことだね

「谷口事件」を通して、谷口(誠)という人間のことを、彼の配偶者である理枝より、家族よりも深く知ることになった城戸にとっては、演じるのにこれ以上ない人間だったことでしょう。

なにせ、殺人犯の息子であるというバックボーンと、職場で起こしかけた「事故」のことまで知ってしまったわけですから、その理解度はもはや幼少期からの親友並なのではないでしょうか。

「傷」を抱えた「谷口」の経歴は言い方は悪いですが、城戸自身の自尊心を満足させると同時に温かい家庭を築いた彼に対する嫉妬や羨望もあいまって、非常に心地よいものなのでしょうね。

 

しかし、逆に言えば、城戸によってバックボーンを解体されてしまった「谷口」の戸籍だけは、交換しても意味がないのです。

理枝はもちろん、谷口大祐の兄・恭一、大祐のかつての恋人・美涼まで、「谷口大祐」の戸籍が交換されたことを知っていわけですから。

そして彼らは、城戸が「谷口大祐」の人生を追っていたことを知っています。

つまり、その経歴を行きずりの相手に詐称する程度ならばともかく、城戸が別人になりたいからと戸籍を交換しようとしたとき、「谷口大祐」のものと交換するのは非常にリスキーなのですね。

 

 

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【ある男】最後のセリフや意味・城戸のその後の考察まとめ

 

まとめ
  • 城戸は「束の間」別人を「演じる」ことでガス抜きをしている
  • 別人を演じるのは、本来の自分を生きるため
  • 城戸が戸籍を交換するつもりは(今のところ)なさそう
  • 交換したとしても、「谷口」はリスキーだから避けそう

 

以上、映画「ある男」のラストシーンについての考察でした!

裕福な暮らしをして、弁護士という職を持ち、美人な妻と可愛い息子に囲まれている、一見「成功者」に見える人物、城戸。

 

しかしその実、夫婦間の不和や、マジョリティに理解されづらい出生などから、もともと「自分じゃない誰かになりたい」という欲求の芽が、城戸にはあったのかもしれませんね。

原作小説と映画は、題材が同じだけの別の作品として見ることも可能ですし、その場合、映画版では本当に「谷口の戸籍を得た城戸」の可能性もあります。

皆さんはあのラストシーンをどのように感じましたか?

ご意見ご感想などありましたら、ぜひコメント欄からお寄せくださいね!

 

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